大切な人を亡くしたらどうするか。生き返らせる方法があるとしたらどうするか。失われたモノを「取り戻す」全編通して主人公が誰だったのかを振り返ってみるとなかなか深い作品であったように思います。伏線回収の仕方が見事の一言。
【あらすじ】
舞台はとある事故以降寂れてしまった海上人工ニュータウン。
首刈り女の都市伝説で賑わうこの町に、主人公・槙野と愛娘もみじがやってきた。
噂によると、黒いセーラー服に黒髪の、槍のような武器を持った少女が、夜な夜な町を徘徊しては人の首を刈っているという。
そして出会う二人。その少女の面影は、亡き妻・紅葉に瓜二つであった…
【シナリオ】
主人公のうちの片方、槙野先生ですが登場時点で妻を失っており、愛娘もみじと二人暮らし。義父の伝手もあり人工島ニュータウンにやってきて新生活を始めるのですが、死んだはずの妻に瓜二つの少女・暮葉に出会う。妻が生き返った訳ではないようだが、槙野ともみじをどこか気に掛ける様子で… というところで関係性を探りました。
生き返った妻が記憶喪失で…という話ではないのですね。
TRUEルートのネタバレをしてしまうと面白くないのでもみじルートの話に少し触れたいのですが、もみじが湯船で溺死させられそうになったとき、その犯人は本作の黒幕でもなく、誰が侵入したわけでもなく、槙野の「妻の居ない世界なんて生きていてもしょうがない」という生への執着の欠如を敏感に感じ取ったもみじの心の優しさ、或いは死の香り・誘い(いざない)というべきものであったと分かったときボロボロに泣いてしまいました。ここの場面の表現に強く心を揺さぶられました。
(Ⓒコットンソフト 2007-)
槙野に毎日髪を結んでもらうもみじの日常回がすごく好きでしたね。この日常回を見せられた後で槙野の心の苦悩を思うと、瞼の奥がじんわりとしてきます。
黒幕…まあ話をすすめるとバレバレなので言ってしまいますが汐見先生の狂気がイマイチ足りませんでしたね。ルートによっては次々と人を殺していくのですが、狂気が甘い。酔えませんでした。信哉ルートから進めると謎解き感覚でプレイできるのですが、槙野先生ルートから始めてしまったばかりにかなりネタバレが進んでしまい、信哉ルートが流れ作業になってしまいました。自由に視点切り替えでプレイできる良いシステムのように見えてこれは欠陥だったんじゃないかなあと… ルート固定で良かったですよね。
大切な人を亡くしたら人はどうするか、生き返らせる方法があるとしたらどうするかという本作の真のテーマについては隠れた主人公同士の対比が綺麗になされていてお見事でした。泣けると思います。
しかしながら。セーラー服の黒髪少女が夜な夜な槍を持って首狩りをするというミステリー調の出だしでおおっこれはと期待したのですが、途中からミステリーでもなんでも無くなったのはがっかりでした。ライターの主張したいことは詰め込まれてるし理解できるのですが、どうしてだろうこのソウジャナイ感。ミステリーを期待して購入すると火傷するかもしれません。終始暗めの雰囲気なので好みの方はどっぷりつかれるはず。
話の端々にマタイの福音書の引用が出てきます。ありがちなとってつけの引用ではなく、初心者にも取っ付き易く噛み砕いてくれています。宗教チックなお話が好きな人や詳しい人は更に楽しめると思います。
【システム】
年表をフローチャート式に振り返りができるようになっています。シナリオの組み立てが凄く丁寧なので時系列が整然としており、把握しやすいと思います。ルートをクリアするごとに過去のサブエピソードを閲覧できます。改めて振り返るとよくもここまで上手く纏めたものだと。
【キャラクター】
槙野…妻と死別しているという悲しい設定。話の節々で厭世チックなものを感じ取れました。
もみじ…北斗南女史のロリボイスが光るキャラクター。エロゲの実娘にありがちな、賢い女の子です。シナリオにうずまく陰鬱なムードの清涼剤的な役割を果たしています。ごほうびはありましたが変にえちちなシーンがなくて良かったよ。性倒錯は汐見先生だけにしてくれい。
汐見…悪役ポジション。単に悪役ではなく、最終的に提示されたテーマを対比する存在として重要なキャラクター。背景を振り返るとこの人も可哀想です。しかし我を抑えきれず暴走してしまった。なんとも。
詩菜…殺されがちな可哀想なツンデレヒロイン。彼女のルートに賛否あるようですが、個人的にはまほほより随分お気に入りだったりします。
まほほ…巨乳キャラ。まほほの母は結構重要キャラクターなのですが、この子はあまり好きになれませんでした。癒しキャラはもみじで十分なので、キャラ被り(被りってほどでもないけど)で浮いている感はありましたね。
【絵】
暮葉によるショッキングな斬首シーンが脳裏にこびりつきますね。
えちちシーンについては概ね文句ないです。さほど印象に残ったシーンも少ないのですが。
【声】
声ゲーですね。北斗南女史が3役演じるという…流石です。女史のファンならとりあえず購入してもいいと思います。
もみじのロリボイスもたまらんのですが、暮葉のしっとりボイスが好みすぎました。全編通して出てくるからね。やっぱり声大事。
【音楽】
BGMあってこそのエロゲですからね。流れるタイミングも良しでした。
まあなんといってもOP曲「レコンキスタ」が全てを持っていきますよね。ゲームを知らずに聞いても良い曲なんですが、本編をプレイした上でもう一度歌詞と照らし合せながら聴くとじんわり。
【まとめ】
本当の幸せを「取リ戻セ」ということなんでしょう。時系列を追っていくとなんとなく終着点は予想できるのですが、伏線の回収が絶妙で感動しました。
同じ話を5周させられるので面倒ですが、TRUEまで辿り着く価値はあります。コットンソフトさんてねこねこさんの引き継ぎブランドなんですね。ねこねこさんとも作風が全然ちがうしなあ。エロゲでもなかなかない異色な作品なので、たまたま見つけたら買ってみていいんじゃないでしょうか。こういう作品を全年齢でCS移植してくれたら、エロゲの良さがもっと広まるんだけどなあ。
ミュルミナ
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