未熟な女主人公の成長を描くお話ですが、仲間が魅力的すぎて後半完全に主人公ポジを喰われているという勿体ない作品。処女神はハルじゃんというキレのあるギャグは笑いますね。
【あらすじ】
詳しくは公式HPをどうぞ。
天変地異により高度500フィート(150m)以上の飛行ができなくなった世界でのお話。
高度500フィートから宇宙に達するまでの飛行不可能高度は「アルテミスの処女膜」と呼ばれており、2040年の天変地異以降20年、誰一人として処女膜を破って宇宙に到達できたものはいない。
低空飛行(通常高度100~150mまで)を余儀なくされた世界で、コパイとして就職した女主人公・ハル。かつてアルテミスの処女膜を破りかけた伝説のパイロット・桂桂馬にしごかれながらパイロットをめざし成長していく話です。
【シナリオ】
8章構成で、5章までは主人公ハルの出会いと別れの成長物語になります。登場人物がとにかく異色で、19~20歳のハル、6~7歳のアリーを除いて江戸湾ズに在籍するメンバーは皆30代中後半の男女というレアな設定。過去編できっちり振り返られますが、桂をはじめとする30代組のメインキャラクター達は(一部トラウマを抱えながらも)過去の経験によりほぼ精神的に成熟しきっており、終始ハルを見守りサポートする立ち回りです。「未熟な主人公が周りの大人たちに助けられながら成長していく」「大人だって夢を追いかけたい」お話が大好物であれば、満足できるでしょう。シリアスな設定の割にとにかく温かい、所謂青春群像劇というやつです。
作中ハルは6歳の女の子アリーを引き取ることになるのですが、このキャラクター性が魅力的。日常回って飽き飽きしてしまうものですが、おませさんなアリーのお蔭でだれることなく読めました。アリーがとにかく可愛い。癒しです。
ハルは初恋の相手達夫くんと付き合い、終盤ではこの優男くんが大舞台に立つのですが、悪い予想が的中しましたね。キャラクターが掘り下げられず魅力を感じないのに喋ることはデカいので、「なんだコイツ・・・」感は否めません。結局ハルは江戸湾ズに帰ってくるものの悲願を達成した桂は亜希子に魅入っており、さてどうなるかしらというところでエンディング。嘘でしょ。
一方、ダブル主人公的な立ち位置の桂も後半の動機づけが薄いせいで勿体ないキャラに…
達夫くんたちのマジックナンバー到達後、突然宇宙へ飛び出します。サラとのわだかまりが解消されたことで再起の決心がついた、としか推測できず…。元々くすぶっているだけであることはJJが明言しています。ハルの挫折と成長が桂を突き動かしたというわけでもなく、これではぶつ切りの別話なんですよね。おまけに桂の一人語りのムービーを見せられ…着地点が迷子なんです。最終章が酷評なわけです…
アルテミスに立ち向かうのかと思いきや、ポッと出のラスボスと戦って収束していくのがなんだかなあと。素材は良いのに…打ち切り漫画と揶揄されるのも頷けます。
【システム】
まさかの女性主人公チャート無し一本道シナリオ。
前述した通り、強制オートムービーの頻度の高さがイマイチ気に入らず。マブラヴオルタでもそうでしたが、ここらへんの融通を効かせて欲しいですね。いや、黙って見てろよ言われたら確かにそうなんですが…
バグが多いのでしっかりパッチを当てておきましょう。
【キャラクター】
ハル…女主人公というレアなエロゲの名前を汚さない、良いキャラクターをしています。人の死を悲しみ、別れを苦しみ、病に苦しみながらも仲間の力を借りて乗り越えていきます。芯が強く折れないのが高評価。声の人も力が入っており、5章までしっかりと感情移入できました。「フンッフンッ」などキャラ付けしようと意識しすぎな点は感じられましたが、エロゲだしいいんじゃないでしょうか。桂馬への恋慕に気付いた時に達夫にプロポーズされ江戸湾ズを離れる流れは泣きましたね…
アリー…これまた魅力的なキャラクター。6歳とは思えない落ち着きぶり。アリーの凄いところは苦しむハルを見て達夫ではなく桂馬を呼ぶ冷静さでしょう。こんなシーンを見せられたら好きになってしまいます。個人的に屈指の名シーン。
桂馬…6章以降の主人公ポジ。ラリアットがかっこいい。ハルにパイロットとしての生き様を見せるカッコいいオトナです。とにかくカッコいいキャラクターなので作品をプレイして味わってください。6年前の事故から必要以上に女性に踏み込まない彼なりのプライドに好感を覚えますね。ラストの単独飛行はイマイチ感動できませんでしたが、亜紀子への想いを打ち明けたシーンは大変よろしかったです。後日譚みたいなのが欲しかったんですよねえ。
【絵】
丁寧に描いてくれています。江戸湾ズの雰囲気がよき。
【えっちしーん】
アルテミス(処女神)はハルかい!と思わず突っ込みたくなりますね。ネタバレしてしまいますがまさかのハルのえっちしーん全て夢オチです。個人的に夢オチ苦手マンなので、これはいただけませんでした。シチュエーションも唐突でイマイチですし。しかし作中終始処女を貫いたのは素晴らしいと思います。こういう作品があっても良いのでしょう。
桂馬のえっちしーんですが、亜紀子さんとのえちしーんはとても良かった。亜紀子さん報われて良かったー。良い話です。
夢オチで回想を半分も埋めてくるのはどうかと思うんですが。ハルが江戸湾ズに戻ったところで亜紀子が桂馬を食ってしまってる訳で… それだったら達夫くんに頑張ってもらって一回くらいえっちしーん増やして欲しかったですねえ…
【音回り】
ハルとアリーの声当ては最適でしたね。熱演でじんわり泣けます。最終章のアレはシナリオの問題で若干いただけないですが…
『ジュピター』のアレンジはテーマにあっていて良かったと思います。
あとアレンジ曲使いすぎかなーという印象はありました。
【まとめ】
後半、ハルとアリーが空気になってしまっているのがただただ惜しいです。最終章で桂馬の悲願がダイダロス計画に先越されてしまっているのも雰囲気を損なうというか。シナリオがシナリオなので仕方ないんですが…違う、そうじゃない。
ハルの成長物語までめちゃくちゃ良い話だったのに…
ぐぐっと盛り上がっていくところで、盛り上がれなかった。お話自体は全く破綻がないんですが、無理やりくっつけて解決!はいおわり!と言っているようなもんです。超特急です。恐らく大多数の読者が求めているのはそのシナリオ運びではない。
あとは女性主人公、女性主人公視点をどう感じるかでしょうか。えっちしーん必要だったのかも含めてエロゲらしからぬ珍しいゲームなので一本まるまるプレイしてみる価値はあるかと思われます。女性にもおすすめできるエロゲーのひとつかなと。
ミュルミナ
最新記事 by ミュルミナ (全て見る)
- 穢翼のユースティア - 1月 22, 2020
- 恋ではなく -It’s not love, but so where near. - 12月 8, 2019
- 機械仕掛けのイヴ Dea Ex Machina - 12月 7, 2019